日本でも「ゴーストレストラン」は定着するか!? 無店舗型カレー店『6curry』の挑戦
店舗を持たずに飲食業を営むゴーストレストランの手法は、近年日本でも少しずつ増えつつある経営業態だ。しかしながら、飲食店の要となる「店舗」なくして、どのように経営を行うのか気になっている方も多いことだろう。今回はUber Eats専門店としてゴーストレストランを経営している『6curry(シックスカレー)』に取材し、事業責任者の廣瀬彩さんに経営の実態やメリット・デメリットなどを伺った。
選んだ理由は「軽やかにはじめられるから」。ゴーストレストラン経営のきっかけ
『6curry』はUber Eats専門店として運営しているカレー店だ。ただし、一般的に想像されるカレーライスとは違い、国産の新鮮な野菜とカレーで層を重ね、カップで提供しているハンディ―スタイルを売りとしている。「カレー」と聞くと強い香りのため食べる場所を考えなければならないが、『6curry』はコンパクトで匂いも抑えられているため、場所を選ばずに食べられる。また、見た目がかわいらしく、野菜中心でヘルシーであることからも、人気が高い。
魅力的なプロダクトは飲食業に精通しているからこそと考えるかもしれないが、じつは運営元であるNEWPEACE Inc.は、飲食業を中心としているわけではない。主事業として行っているのは「ビジョニング」と彼らが呼ぶ、わかりやすくいえば、広告・プロモーションなどの業務だ。
「クライアントが課題として抱えていること、あるいはクライアントも気付いていない課題を言語化し、クリエイティブの力で解決する事業を行っています。社会課題を解決する試みをすることもあります」と廣瀬さんは話す。
その中の事業の一つとして始まったのが『6curry』だ。代表取締役である高木新平氏が大変なカレー好きであることから、「カレーで何か仕掛けよう」と、カレー好きをFacebookで募集したのがきっかけだった。結果として個性豊かなカレー好きたちが集まり、チームを立ち上げて事業を始めるに至ったという。
『6curry』のコンセプトは「カレーは融通無碍。世界を混ぜ合わせ、新しいことを楽しむ」。カレーは何を中に入れても、何にかけてもいい。さまざまなものとかけ合わせることで新しい発見ができる自由な料理だ。だからこそ、カレーをきっかけにいろいろな人が出会い、いろいろなアイデアが生まれ、面白いプロジェクトになるのではと考えた。
ゴーストレストランとしてスタートした理由を、「一番軽やかに始められるからです」と廣瀬さん。実店舗を持つとなると多額の初期費用がかかってしまう。さらに、店舗のコンセプト、立地や内装などの意思決定も重要になるなど、始めるにあたっての長期的な準備が欠かせない。また、実際に始めてしまうと、なかなか変更や修正を行うのが難しいという点も、見逃せないところだろう。そこで、できるだけ短い時間で多くのことを試せる方法として考えたのが、「ゴーストレストラン」だった。
「『6curry』の企画が決まった当初、間借りでレストランを経営しているビジネスも、国内で少しずつ増えてきている段階ではありました。だからこそ、昼間だけ空いているレストランがあれば、お借りして営業できるのではと考えたんです」。
店舗を持たずにレストランを間借りし、試行錯誤を繰り返しながら商品をより良くしていく。このゴーストレストランの手法を取ったことが功を奏し、チームを作ってからなんと半年後にはUber Eatsを利用して販売を開始していたそうだ。
「はじめはそもそも、『カレーで何かやろう』ということしか決まっていなかったんです。でも、チームを作ってアイデアを出して、と進めていくと半年後には販売までいきました。このスピード感はゴーストレストランでしかできないことだと思います」。
『6curry』のカレーは複数の食材を重ねたおしゃれなビジュアルが特徴
Uber Eats専門店、ケータリング事業として飲食業をスタート
『6curry』はUber Eats専門店という形で経営を行っている。他の店舗ではほとんど見ない手法だ。この経営方法を試したのは、話題になることを狙ったのも一つだが、既存のプラットフォームを使えばすぐ始められること、初期投資が少なくて済むこと、固定費がかからないことなど、多くのメリットを持つことから選んだという。
また、個人への販売と同時に行っているのがケータリング事業だ。実際に行ったケータリングは幅広く、ビジネスイベントからボードゲームカフェやヨガのイベントまで、じつにさまざま。
色鮮やかなビジュアルと場所を取らないコンパクトなカップは、ビジネスシーンでもカジュアルシーンでも利用しやすい。また、野菜がたっぷりと入り栄養バランスがいいという点は、ヨガなどの健康イベントとも相性がよく、好まれている。
商品のリアルな反応を受け取れる。ゴーストレストランならではのメリット
ゴーストレストランは、短期間で商品を発売まで持っていくことができる。そのため、店舗を持ってからでなければわからないようなリアルな反応も、たくさん見ることができたと廣瀬さんは言う。
「商品に関わる意見はたくさんいただきました。たとえば、当初は多くの方に食べていただけるよう、トマトやキュウリなどの定番野菜を多く使うようにしていたんです。見た目の鮮やかさにもこだわりました。ただ、それでは味が単調になってしまっていたことに気がつきました」。
現在の『6curry』は、複数の野菜を混ぜて一つの層にしたり、後から好みで追加する玉ねぎのピクルスを別添えしたり、個性豊かな素材をカレーと組み合わせ、魅力的なプロダクトを作り出している。販売を試してみたからこそ改善できた点だ。「チーム内で話し合っているだけではわからないことを、『販売してみる』という体験を通して教えてもらえました」と廣瀬さんはいう。自分たちだけでは見えなかった改善ポイントを見つけられたことは、大きなメリットといえるだろう。
また、意外なターゲット層も知ることができた。「女性にも好評をいただいていますが、意外なことに男性にも人気です。男性でも健康やダイエットに気を遣っている方が多くいらっしゃることに気づけました」。野菜がたっぷりでヘルシーな『6curry』は、健康志向の男女にとって強い味方となっている。
食材の保管や調理スペースをどう確保するか、間借り先との兼ね合いが重要
ゴーストレストランには多くのメリットがあるが、そればかりではない。いくつかのデメリットもあると廣瀬さんは語る。その一つが、調理スペース、保管スペースの確保が大変であることだ。
店舗を持たないといえども、実際の商品を作る場所は必要になる。そこでゴーストレストランの要となるのが、他店からの間借りなどで利用できるキッチンだ。『6curry』のキッチンは渋谷にあり、レストランとして営業しているところを昼の間だけ間借りして利用している。「借りているレストランはもともと主事業のクライアントの方でした。この企画を話した際に「面白そうだから使っていいよ」と快諾してくれたことがきっかけなんです」。
このように協力してくれるレストランを探さなければならないことは、苦労する点といえるだろう。『6curry』の場合はクライアントが提案してくれたことで始められたが、実際にゼロから探すとなると、さらに手間や時間を要することになる。
そして間借りできたとしても、食材を保存するためのキャパシティを用意することにも苦労を伴う。ゴーストレストランは店舗を持たないため、当然冷蔵庫などの保管スペースも所持しているわけではない。多くの場合、間借り先のレストランから借りることになる。冷蔵庫などの機器や食器、調理器具などをどれくらい使ってよいかなど、間借りするレストランとしっかりコミュニケーションを取ることが必要だ。
キッチンや保管スペースの確保という点ではデメリットを感じるものの、廣瀬さんはこの間借りする形態を「やってみてよかったなと思った点です。メリットでもあるのかもしれません」と話してくれた。
初めて飲食店を出す場合、食材を保管するためのキャパシティや調理スペースを想像するのは難しく、どうしても甘く見積もってしまうことがある。しかし、ゴーストレストランの場合は実際のレストランを間借りすることで、ある程度のリアルなイメージを持つことができる。
「食材の保管も調理も、意外とスペースが必要なんだなというのは、実際に始めてからわかりました。『6curry』は新鮮な野菜を使うので、その分冷蔵庫のスペースが必要になるんです」。
自分たちが想定していたよりも大きな冷蔵庫が必要なことや、冷凍庫もあったほうがいいこと、オペレーションの連携で足りない部分があることなど、やってみて気付いたことがたくさんあったという。店舗を持たないことは店舗を持つこととは違った苦労があるが、その分挑戦し、改善ができる。間借りしなければならないというデメリットは、うまくいけばメリットにも変えられるといえるだろう。
ヘルシーなサイズ感で女性にはもちろん男性にも人気のようだ
ゴーストレストランから実店舗を構えるまで。『6curry』の新たな挑戦
現在、『6curry』はUber Eats専門店を一時的にストップしている。その理由は、実店舗オープンの準備に集中しているからだ。ゴーストレストランが店舗を持ち、どうなっていくのか。今後の展開をうかがった。
「UberEatsではランチタイムのみ営業していましたが、今後は、夜の販売にも挑戦したいと考えています。晩ご飯は、カロリーや栄養などを気にしている人が特に多く、食べるものに迷う方も少なくありません。一日頑張って疲れた日、コンビニのごはんは食べたくないけど、自炊する元気がない、そんなときに『6curry』があったら、皆さんの支えになるのではないかと思っています」。
店舗のコンセプトは「セントラルキッチン」。レストランというよりは、『6curry』のキッチンに遊びに来てもらうようなイメージだ。最初に掲げた合言葉同様、人と人、人とアイデアが出会うことで新しい何かが生まれる場所、コミュニティの場所を想定している。
「『6curry』のプロジェクトとプロダクトは、いろいろな要素のかけ算で面白くなっています。カレー×サラダ×見た目がかわいい×手法が新しい……など、これからも多くのものを掛け合わせて、より面白いプロジェクトにしたいと考えているんです。将来的には世界まで混ぜ合わせたいですね」。
ゴーストレストランとしてはじまった『6curry』の試みは、多くの人を巻き込み、挑戦を行い、より良いプロダクトを作ること、より良いプロジェクトにすることにこだわってきた。飲食業経験がない彼らだからこそ、この期間がとても重要だったといえる。初期費用を貯めたり、明確なコンセプト作りをしたりするには、時間も手間もかかる。準備段階としてゴーストレストランで挑戦してみることは、新規開業者にとって効率的な手法の一つといえるのかもしれない。
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