1日を240時間にできる?
世界は「資本主義経済」という名のゲームだ。一人ひとりが主人公であり、自由に動き回って与えられたルールを利用し、モノを買ったり、資本を増やしたり、リターンを受け取ったりしながら、願望や夢を達成することができる。このゲームをプレイする上での鍵は「時間をいかに支配するかにある」と言い切るのは、野村証券で富裕層営業のトップセールスを経て、マザーズ上場のフィンテック企業「ZUU」の創業者・代表取締役社長兼CEOをつとめる冨田和成氏だ。9月19日に新著『資本主義ハック』を上梓する同氏が、「1日を240時間にできる方法」を解説してくれた。
資本と時間の関係
時間は大切だということは多くの人が知っているが、なぜそこまで大切なのかということについてはっきりと言語化できる人は少ない。本稿では資本とそれによるリターンの最大化という切り口で説明していきたい。
まず、資本とリターンの関係は次の計算式で表すことができる。
資本の大きさ×利回り×時間=リターン
素晴らしいスキルや人脈やブランドを持つAさんがいたとする。彼女の生産性は、一般的な人であるBさんの5倍もあるとしよう。
しかし、もしAさんが仮に家族や自分の趣味の時間で忙しく、仕事に注ぐ時間が週に5時間しかないということであれば、リターンはたかが知れている。
Bさんが週に100時間働くなら、その労働時間は20倍。5倍程度の生産性の違いでは差を埋めることは不可能だ。つまり、人が持つ時間を何に配分するかによって、資本のリターンは大きく変動するということだ。
他の資本の例として、株などもわかりやすい。
1000万円分の株を持っていて、その株が1年間で3%分の配当を出すのだとしたら、1年持てば30万円のリターン、2年持てば60万円のリターンが得られる。その資本をどれだけの時間所有できるのかで最終的なリターンが決まってくるのだ。
また純粋に時間が生まれると人的資本である「知識・スキル」「信用・ブランド」「人脈・ネットワーク」を厚くすることなどに再投資することができる。
たとえば、休日の時間を仕事のための勉強や語学、または人脈の構築などに充てる人と、休日の大半はだらだらと過ごして、残りの2時間だけを人的資本に投下する人とでは、いずれ稼ぐ力の面で大きな差が開いているはずだ。
このように、資本は時間と非常に深く関わっており、いかに時間を支配するかによって人と人の間に二次関数的な差をもたらしていく。時間を支配したことで、資本を手に入れ、その資本を活用することでさらに多くの時間を支配するという循環になっていく。これは資本が資本を呼び込む資本主義経済の構造そのものだ。
では、どうすれば時間を支配し、1日に時間しかない時間を時間、100時間、200時間……と増やしていくことができるのだろうか。
考え方は大きく2つに分けることができる。
まず1つが、あなたが時間を費やしているものを極限までアウトソーシングしていくこと。もう1つが、あなたが時間を費やしているものの中で、もうひとつのこと、もうふたつのこと……と同時にできることを増やしてしまうことである。順に解説しよう。
アウトソーシングで時間を240時間にする
アウトソーシングとは、本質的には「時間をお金で買う」ことである。時間の切り売りとは真逆の考え方だ。
時間を買うことができるものやサービスとして、最近では時短家電が人気を集めており、家事代行や宅配ボックスなどの需要も高まっている。過去には自分の時間を投下することでしか得られなかった価値を、電化製品や他者などの仕組みにアウトソーシングすることが可能になったのだ。
ちなみに、私が担当してきた富裕層と言われる人たちの多くが、自分の時間を最大化するために、他人に振ることや仕組み化することを徹底して考えていた。
たとえば、「家政婦さんに家事をアウトソーシングする」「アイロンがけが必要なものはクリーニングに任せる(配達も)」「食事は外食か出前を取る」「教育は家庭教師や幼稚園などに任せる」などは、まさに自分の時間を最大化するためのアウトソーシングであり、時間を買っている行為といえる。
つまり、企業が内製するか外製するか考えるように、日々自分がやることとやらないことを、時間価値のリターンとコストで比べているのである。
シェアリングエコノミーの時代になり、クラウドソーシングでは、個人でも作業を依頼できるようになった。自分が日々行っている活動の多くがアウトソーシングできる。実際には、日本だけでなく、世界中の労働力を買えるようになっているのだ。
実際にアウトソーシングするためには次のようなことを意識するといい。
(1)自分が1日やっていることをすべて書き出してリスト化
会社の時間、個人の時間も含めてすべてを書き出す。人によっては週間ベース、1か月ベースでもいい。
そのリストの一覧と時間配分を見ると、実は優先順位が低いことに時間を使っていることがわかる。受験の際には、英語200点、国語100点、社会100点という配点であれば、2:1:1を理想として勉強時間を確保したほうがいいのと同じように、いま達成したいこと、大切にしたいことから逆算して時間が配分されている必要がある。
その理想のイメージをもとに、自分でやること、アウトソーシングするものにふりわけていく。加えて、アウトソーシングするものの中で、それぞれのアウトソーシング可能な時間とその対価であるお金が見合うか一つひとつ検証し、決断・発注していく。
一つ注意したいのは、多くの人がアウトソーシングするものでも、自分にとってどうしても必要な時間、たとえば「自分は料理をしている時間が幸せだ。自分が作ったものを家族に食べてもらって喜んでいる顔を見るのが好きで、自分も幸せになる」といったような時間は大切に残せばよいということだ。その価値観は人それぞれだ。
(2)現在はできていないが、アウトソーシングできるなら行いたいことをリスト化
いま自分がやっていることをベースに洗い出しをすると、「やっていないけど行いたいこと・大切なこと」は案外見落とされてしまいがちである。やっていないことは意識に入りにくいからだ。
たとえば、健康は質の高い時間を使い続けるためのとても重要な要素だが、一人暮らしの働き盛りの人だとどうしても自分で作るのは大変だ。健康にいい食べ物をわざわざ食べに行く時間もない……。こうしてついつい後ろ回しにしがちだ。UberEatsやLINEデリマで健康な食事を宅配してもらうことはアプリを開いて30秒で手配できてしまう。
このように、「もし1日が100時間あるとしたら何をやりたい?」ということを自分に問いかけてみて、どこかでやりたいなと思ってはいるものの、現状までに取り組めてないものを対象にしていくのだ。
もしいま持っている時間に加えて、216時間分をアウトソーシングできれば、トータルで240時間、つまり1日の時間が10倍になるということだ。これは、大げさにいえば、人生を10回分生きることと同義であるはずだ。1日に自分の10倍の時間を使える人と戦うということは、昔の戦で、兵士・兵力差が10倍の相手国に戦いを挑んでいくようなものだ。このように考えると、時間の支配が資本と密接に関わっているという意味がさらに深く理解できたと思う。
時間を二重・三重に使う「ながら思考」
「時間を作り出そう」と言うと、何かをやめて、その空いた時間で新しいことをはじめるのが一般的な考え方だが、もうひとつのやり方が「ながら」の発想だ。つまり、Aという作業とBという作業を一緒に行うのである。1時間、1日を一重のみに使っているのが世の中の大半の人たちなのに対して、同じ時間を二重・三重にしていくわけだ。
まず思い浮かべやすいのが移動時間の「ながら」だ。
現役の経営者でバリバリ結果を残している人ほど、公共交通機関や自家用車による移動をなるべく避ける。基本はタクシーであり、余裕が出てくれば運転手を雇うようになる。ある一定以上の規模の経営者たちの多くは、このパターンだ。
彼らは、ここでも「時間を買う」という発想をしている。公共交通機関を使わないのは、鉄道会社などが定めた時刻表や路線図に従うことが時間の浪費になると感じるからだ。また満員電車などは、揉め事が発生することがあったり、病気などをうつされたりするリスクもある。車であれば点と点を最短で移動すればいいのに、電車はそういうわけにもいかない。
自家用車の場合、事故のリスクも当然あるが、さらに車を自分で運転していると、その間、仕事ができない。仕事はもちろんのこと、移動時間を活用して昼食をとったり仮眠をとったりする経営者も大勢いる。大企業の役員がハイヤーを使うのは見栄のためではなく、安全のためであり、生産性を上げるためなのだ。
年収が1500万円で、年間の労働時間が2000時間だとすると、その人の1時間当たりの価値は7500円。この計算さえできれば電車に乗って節約するより、タクシーに乗った分(2500円)を買ったほうが高利回りということになる。
ただし、私たちは、自分が100%コントロールできる時間だけで生きているわけではないのが実際だ。いやむしろ、上司が勝手に入れた社内ミーティング、お客さんから呼びだされて訪問する時間、友人や家族との時間、その他のさまざまな付き合いや手続きといったようなものに圧迫され、自分で100%コントロールできる時間のほうが少ないだろう。
仮に、100%コントロールできている時間に対して、ながら思考で二重・三重を意識できていたとしよう。しかしその大元となる時間が少ない以上、効果は限定的となる。
重要なポイントは、突発的な予定や誰かとの面談中などといった、自分が本来100%コントロールできない時間まで有効に使えるかどうかが、人と人との成果に天と地の差を生むことになるということだ。
たとえば、2週間後に講演会にスピーカーとして登壇する大事な予定、3週間後に社内のプロジェクトであるクレジットカードの消費者調査のレポート提出日が控えているとしよう。その間の人と話す機会は、面談としてのメインの目的を果たしながら、すべてこの2つの準備にも変えてしまうことも可能かもしれない。
たとえば、その場で「私の考えを少し披露させて欲しい」「最近考えていることがあるのだが」と言って、講演会で話す予定のことを話しだしたり、資料を見せながら説明をしてみたりする。そこで相手からの質問や自分でうまく説明できたところ、そうでないところのブラッシュアップ、または話す予行練習にしてしまう。
また、面談の終わりに、「一つだけいいですか? ちょっといまリサーチやっていて」といった形で2、3質問させてもらうことで、消費者調査にも活かしてしまうこともできるかもしれない。私自身も採用面接や顧客とのミーティングなどの時間に、相手にとっても良いインプットになるような表現にした上で、今後講演する内容を話したりすることが多い。
このように、100%コントロールできない時間こそ、いかに二重・三重に活用していくかということが大切だ。
一方で、もっと細かい仕事術的な工夫でも行えることは無数にある。
たとえば、電子書籍をアマゾンのKindle(キンドル)で読んでいる人はいても、読み上げ機能を活用している人はほとんどいない。これは、iOS(アップル)の機能で、購入した最新の書籍をスマホやタブレットで聞くことができる機能だ。こうした読み上げ機能を活用すれば、移動や運動など他の作業をしながらでも耳から情報が入ってくるので、「ながら」につながる。
もっといえば、テキスト化されている文字をMicrosoft Wordに貼り付け、Word上で文字の該当箇所を指定すると、「iTunesに音声として保存」という機能を使える。すると、テキスト化された文書も自分で音声ファイルを作成し、耳からインプットすることが可能になるのである。文章を読み上げてくれるので、同じくその音声を入れたPCやスマホさえあれば「ながら作業」ができる。
そして「Audipo」というアプリを使うと、再生速度の調整が可能だ。そのため、私は休日などの単純作業中や移動中などには、1.5倍または2倍速のスピードで仕事に関連する情報を耳からインプットしたり、自分が書いた原稿を聞いて、推敲作業に役立てたりしている。
このようにして、ながら思考で二重・三重の時間をたくさん作り上げていくと、他の人の1.5倍、倍、倍……と時間を使うことができるようになっていくだろう。
0コメント